前章では ラプラス変換 について学びました。この章ではラプラス逆変換について学びます。 ラプラス変換は $t$ の関数の式を $s$ の式に変換するものでした。しかし $s$ の式に変換しただけでは方程式は解けません。$s$ の世界で代数的に処理した式を再度 $t$ の式に戻すことで微分方程式を解くことができるようになるのです。ここで必要になるのがラプラス逆変換です。 ラプラス逆変換は以下のように表されます。 \[f(t) = L^{-1}[F(s)] \] $s$ の関数の式にラプラス逆変換を行うことで、$t$ の式になっていることが分かると思います。
 ラプラス逆変換にも変換表がありますので、確認してみましょう。
$F(s)$$f(t)$
$\dfrac{1}{s}$$1$
$\dfrac{1}{s^2}$$t$
$\dfrac{1}{s^n} (n=1,2,\cdots)$$\dfrac{t^{n-1}}{\Gamma(n)}$
$\dfrac{1}{s^\alpha} (\alpha > 0)$$\dfrac{t^{\alpha-1}}{\Gamma(\alpha)}$
$\dfrac{1}{s-a}$$e^{at}$
$\dfrac{1}{{s^2}+{a^2}}$$\dfrac{1}{a} \sin at$
$\dfrac{s}{{s^2}+{a^2}}$$\cos at$
$\dfrac{a}{{s^2}-{a^2}}$$\dfrac{1}{a} \sinh at$
$\dfrac{s}{{s^2}-{a^2}}$$\cosh at$
ラプラス逆変換について、さらに詳しく学びたい方には、以下の本がおすすめです(楽天サイトにとびます)。
    
ラプラス変換と同様に、ラプラス逆変換にも線形法則と相似法則が成り立ちます。 線形法則    $ a L[f(t)]+ b L[g(t)] = L[{af(t)+bg(t)}] $ 相似法則    $ F(as) = \dfrac{1}{a}F(\dfrac{t}{a}) $
それではラプラス逆変換を使って、いくつかの計算を行ってみましょう。

問1 ラプラス逆変換せよ。  $ L^{-1} [\dfrac{1}{s^5}] $

$s$ の肩に乗っている指数が自然数なので、ラプラス逆変換 $L^{-1} [\dfrac{1}{s^n}] (n=1,2,\cdots) = \dfrac{t^{n-1}}{\Gamma(n)}$ を使います。 $ L^{-1} [\dfrac{1}{s^5}] = \dfrac{t^{5-1}}{\Gamma(5)} = \dfrac{t^4}{4!} = \dfrac{t^4}{4 \cdot 3 \cdot 2 \cdot 1} = \dfrac{t^4}{24} $

問2 ラプラス逆変換せよ。  $ L^{-1} [\dfrac{1}{\sqrt{s}}] $

上記の式を $ = L^{-1} [\dfrac{1}{s^{\frac{1}{2}}}] $ と書き換えると、$s$ の肩に乗っている指数が分数なので以下の逆変換が利用できますね。 $ \dfrac{1}{s^\alpha} (\alpha > 0) → \dfrac{t^{\alpha-1}}{\Gamma(\alpha)} $ $ L^{-1} [\dfrac{1}{\sqrt{s}}] = \dfrac{t^{\frac{1}{2}-1}}{\Gamma(\frac{1}{2})} = \dfrac{t^{-\frac{1}{2}}}{\sqrt{\pi}} = \dfrac{1}{\sqrt{\pi t}} $
ラプラス逆変換の性質のところでやったように、$F(s)$ が一次式の場合、ラプラス変換表を使って簡単に逆変換を求められます。しかし、そうでない場合には、$F(s)$ を部分分数に展開して、ラプラス変換表にあるような簡単な有理数の和に変形しなくてはなりません。部分分数展開法の一つとして、未定係数法があります。 積分を学んだ人なら、未定係数法についても学んだことがあると思いますので、復習のつもりでさらっと解説します。 ある微分方程式をラプラス変換したとき、$F(s) = \dfrac{1}{s(s + a)}$ となったとしましょう。$F(s)$ の分母は $s(s + a)$ と因数分解されています。そこで、これらの因数 $s$ と $s + a$ をそれぞれの分母とする有理関数の和で $F(s)$ を表します。 $F(s) = \dfrac{A}{s} + \dfrac{B}{s + a}$ ここで、$A$ と $B$ は未定係数です。右辺を通分して整理すると $F(s) = \dfrac{A(s + a) + Bs}{s(s + a)} = \dfrac{(A + B)s + Aa}{s(s + a)}$ となります。この式が $\dfrac{1}{s(s + a)}$ と等しくなるためには、係数を比較して $\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A + B = 0 \\ Aa = 1 \end{array} \right. \end{eqnarray}$ が同時に満たされなければなりません。この連立方程式を解くと $A = \dfrac{1}{a}, B = -\dfrac{1}{a}$ となり、未定係数の値が求まりました。 実際に問題を解いてみましょう。

問3 次の式を部分分数展開せよ。  $F(s) = \dfrac{1}{s(s + 3)}$

未定係数を$A, B$ として、$F(s)$ を分母の因数 $s$ と $s + 3$ をそれぞれの分母とする有理関数の和で表します。 $F(s) = \dfrac{A}{s} + \dfrac{B}{s + 3}$ 通分して、分子を $s$ の式に変形します。 $F(s) = \dfrac{(s + 3)A + sB}{s(s + 3)} = \dfrac{(A + B)s + 3A}{s(s + 3)}$ この式が $\dfrac{1}{s(s + 3)}$ と等しくなるためには、係数を比較して $\begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} A + B = 0 \\ 3A = 1 \end{array} \right. \end{eqnarray}$ 上の連立方程式を解くと、$A = \dfrac{1}{3}, B = -\dfrac{1}{3}$ となります。よって、$F(s) = \dfrac{1}{s(s + 3)}$ を部分分数展開すると $F(s) = \dfrac{1}{3s} - \dfrac{1}{3(s + 3)}$ となります。 $F(s)$ の次数が低い場合には未定係数法で部分分数展開できるのですが、$F(s)$ の次数が高くなってくると未定係数法で解くのは困難になります。そのような場合には、ヘビサイドの展開定理を使って部分分数展開できます。しかし、ヘビサイドの展開定理自体は複雑なので、展開方法だけを覚えてしまうのが楽です。 $F(s) = \dfrac{1}{(s + a)(s + b)} = \dfrac{A}{s + a} + \dfrac{B}{s + b}$ のとき、未定係数 $A, B$ はヘヴィサイドの展開公式から、以下のように計算できます。
$A = \displaystyle \lim_{s \to -a} (s + a)F(s) = \displaystyle \lim_{s \to -a}(s + a) \dfrac{1}{(s + a)(s + b)} = \displaystyle \lim_{s \to -a} \dfrac{1}{s + b} = \dfrac{1}{b - a}$
$B = \displaystyle \lim_{s \to -b} (s + b)F(s) = \displaystyle \lim_{s \to -b}(s + b) \dfrac{1}{(s + a)(s + b)} = \displaystyle \lim_{s \to -b} \dfrac{1}{s + a} = -\dfrac{1}{b - a}$
これらを $F(s) = \dfrac{A}{(s + a)} + \dfrac{B}{(s + b)}$ に代入すると、F(s)の部分分数展開が以下のように求まります。 $F(s) = \dfrac{1}{b - a} (\dfrac{1}{s + a} - \dfrac{1}{s + b})$ 参考程度ですが、ヘヴィサイドの展開定理とは以下のようなものです。

ある有理関数 $F(s)$ が $F(s) = \dfrac{P(s)}{Q(s)}$ と表され、$P$ の次数が $Q$ の次数よりも大きいものとすると、$F(s)$ は次のように部分分数展開される。 \[F(s) = \dfrac{P(s)}{Q(s)} = \displaystyle \sum_{i=1}^k \displaystyle \sum_{j=1}^{n_{i}} \dfrac{b_{ij}}{(s - a_{i})^j}\] このとき、$b_{ij}$ は以下のように表される。 \[ b_{ij} = \dfrac{1}{(n_{i} - j)!} \displaystyle \lim_{ x \to a_{i}} \dfrac{d^{n_{i} - j}}{dx^{n_{i} - j}} {(s-a_{i})^{n_{1}} F(s)} \]

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